乾燥卵が広げるスイーツの未来|大森由紀子×江森宏之トークセッション
たまごは私たちの食卓に欠かすことのできない、とても身近な食材です。料理はもちろん、お菓子作りにも大活躍のたまごですが、近年は鳥インフルエンザの拡大により供給が不足し、価格が高騰しています。
たまごという食材の重要性が高まるなか、食料の安定供給及び国民生活の向上に寄与することを目的とした活動を行う一般財団法人 食品産業センターは、たまごの美味しさや魅力を知ってもらうためのイベント「たまごスイーツlabo そのおいしさは、たまごからうまれる。」を開催。人気パティシエによって開発されたオリジナルスイーツの提供やたまごの魅力について語るトークセッションが行われ、活気あふれるイベントとなりました。
今回は、フランス菓子・料理研究家の大森由紀子先生と、アイスケーキやジェラートの第一人者として知られるMAISON GIVREEオーナー・江森宏之シェフによるトークセッションの様子をレポートします。江森シェフが開発したスイーツに込めた想いとは? 乾燥卵の可能性とは? ぜひご覧ください。
イベント情報
【開催期間】2025年3月7日(金)~9日(日)
※一般のお客様向けのイベント実施日は3月8日(土)・9日(日)の2日間
【実施時間】10:00-17:00
【会場】六本木ヒルズ カフェ/スペース(東京都港区六本木6丁目10-1六本木ヒルズ ヒルサイド 2F)
【入場料】無料
【提供数】1日250食
登壇者
大森 由紀子先生(フランス菓子・料理研究家、Etre Pâtisse Cuisine主宰)
学習院大学フランス文学科卒。パリ国立銀行(現在のBNPparibas)を経て渡仏。フランス料理と菓子を学ぶ。現在は東京と京都で料理・菓子教室を主宰するかたわら、菓子コンクールの審査員、スイーツ甲子園、フランス・パティスリー・ウィークのアドバイザーを務める。「料理王国」、「産経新聞」にスイーツ記事を連載中。近著は「フランス伝統料理と地方菓子の事典」(誠文堂新光社)、「フランスの宝石菓子100」(パイ インターナショナル)。
江森宏之シェフ(MAISON GIVREEオーナー)
Pâtisserie FRESSONにて MOFフランクフレッソン氏に師事。帰国後「ベルグの4月」にてシェフパティシエとして5年、アイスクリームケーキ専門店「Glaciel」にてシェフグラシエ・シェフパティシエを3年勤め、独立。2015年にミラノ万博にてスイーツのワールドカップの日本代表チームキャプテンとして出場し、優勝に導く。 2017年7月に自身初のパティスリーとなる「MAISON GIVRÉE(メゾン ジブレー)」をオープン。世界のアイスクリームリーディングカンパニーカルピジャーニ社のデモンストレーターを務め、国内外の講習会、コンサルティングも行っている。
たまごが先? お菓子が先? たまごとお菓子の関係について
―大森先生
皆さんこんにちは。フランス菓子・料理研究家の大森由紀子と申します。本日は江森シェフをお迎えして、たまごとお菓子のディープな関係についてお話ししたいと思います。会場には、食やお菓子作りに関心の高い方もたくさんいらっしゃると思います。
たまごはお菓子作りに必要な食材ですが、なぜ、これほどまでに重宝されるのでしょうか。その理由は、たまごが持つ「凝固性」「起泡性」「乳化性」という機能にあります。このような性質を生かすことで、バリエーション豊かなお菓子が生まれています。本日はよろしくお願いします。
―江森シェフ
こんにちは。MAISON GIVREEのオーナーシェフをしている江森です。今回のイベントでは、乾燥卵を使って『ヴァシュランフリュイルージュ』というアイスジェラート使ったスイーツを作りました。ぜひ、実食しながらお話を聞いていただければと思います。
―大森先生
江森シェフ、ありがとうございます。今日は、「ヴァシュランフリュイルージュ」の開発秘話や乾燥卵の可能性についてお話ししたいのですが、その前に、お菓子とたまごの歴史について皆さんに質問させてください。
「お菓子を作るためにたまごを用意したのか」「たまごがあったからお菓子ができたのか」。皆さんはどちらだと思われますか?
―江森シェフ
全然想像もつかないですね!
―大森先生
私が調べたところによると、お菓子の方が先で、たまごがなくてもお菓子を作っていた時代がありました。お菓子には砂糖が必要ですが、砂糖の代わりにハチミツを使って、今のビスケットのようなものを作っていたようです。
お菓子にたまごを使うようになったのは、今から約400年前。ポルトガルの修道院でお菓子を作る際に使ったと言われており、そのお菓子が、皆さんご存じのカステラです。当時から、たまごが持つ「起泡性」を利用してフワッとしたお菓子を作っていたことを考えると、とても面白いですよね。
江森シェフは、アイスケーキやジェラートのパティシエとして唯一無二の存在だと思いますが、ジェラートの起源も古代ローマ時代にまでさかのぼり、砕いた氷に果物を潰して入れて、凍らせて食べていたようですよ。
―江森シェフ
私のお店にも、氷を入れてかき混ぜてジェラートを作るアンティークの機械がありますが、発想としてはそんな感じですよね。
―大森先生
そうだと思います。氷の食感が感じられて美味しそうですね。
―江森シェフ
その機械でジェラートを作ったことはないのですが、美味しいジェラートを作れると思います。
乾燥卵を使ったスイーツに込められた江森シェフの想い
―大森先生
ありがとうございます。今回のオリジナルスイーツの実食体験では、江森シェフならではの乾燥卵の使い方があったと聞きました。サラサラの粉状になった乾燥卵は、鶏卵を粉末状に加工したものです。作業性や軽量性にも優れている食材ですが、どのようにお使いになったのですか?
―江森シェフ
はい。私が作ったのは『ヴァシュランフリュイルージュ』というスイーツ。サクサクのメレンゲ、濃厚なバニラジェラートに木苺を散りばめ、ソルベフリュイルージュで飾り付け。ベリーソースのさわやかな酸味と上品な香りが引き立つ華やかなデザートです。ジェラートに乾燥卵黄、メレンゲに乾燥卵白を使用しています。
―大森先生
江森シェフは、これまでに乾燥卵をジェラートに使ったことはありましたか?
―江森シェフ
いえ、基本的にジェラートを作る際はフレッシュな卵黄を使うことがほとんどで、乾燥卵黄を使うということがそもそもありません。
ただ、乾燥卵黄を使うからといって美味しくなければ意味がありません。むしろ、乾燥卵黄を使うことで得られる美味しさを伝えたいと考えて試行錯誤しました。乾燥卵黄に水を吸収させて、それを加熱してソースを作りますが、そのソースをミルクのジェラートに入れて、バニラと合わせてバニラジェラートにするというような考えで作りました。
―大森先生
実際に作ってみて、味の方はいかがでしたか?
―江森シェフ
はい。「乾燥したたまご」というと、パサパサしたイメージを持つ方も多いと思いますが、フレッシュな卵黄を使ったジェラートと味に大きな違いはなく、美味しくお召し上がりいただけると思います。
―大森先生
乾燥卵黄を使うことで、うま味とコクを与えてくれるのも大きいですよね。
―江森シェフ
そうですね。味もそうですが、卵黄には乳化剤や安定剤としての機能もあるので、ジェラートと混ぜ合わせることでしっかりまとまってくれることを実感しました。
もちろんフレッシュなたまごにはフレッシュならではの美味しさがありますが、乾燥卵でしかできない技術のようなものを見つけたような気がしていて。それぞれの良さをかけ合わせた時に、本当に美味しいたまごを使ったジェラートやスイーツができるのではないかと考えています。私自身とても大きな発見でした。
今日が「乾燥卵スイーツ」のスタート地点。シェフが思い描くたまごの未来
―大森先生
乾燥卵には乾燥卵白、乾燥卵黄、乾燥全卵がありますが、それぞれの特徴を押さえてベストな使い方を発見するのはさすがですね。
乾燥卵も良いですが、たまごという食材についてもお聞かせください。日本人はたまごをたくさん食べますし、毎朝の食卓に必ず並ぶ食材といっても過言ではないと思います。江森シェフの日本のたまごに対するこだわりのようなものはありますか?
―江森シェフ
日本のたまごはフレッシュ・乾燥を問わず、クオリティが高いと思います。私のお店では、作るスイーツや用途に合わせてたまごの種類を使い分けていますが、ニワトリが食べている飼料によって卵黄の色やコクが変わるのも面白いですよね。
マリーゴールドを食べさせたニワトリから産まれたたまごは色味が鮮やかで、乳製品との相性も抜群。この特殊なたまごで作られたジェラートはお店でも人気です。他にも、海藻を飼料に混ぜ合わせたたまごなどもあり、泡立ちの良さが特徴です。
―大森先生
たまごの世界は、一生かけても研究しきれないほど奥が深いですよね。
―江森シェフ
そうですね。今回は私を含めて4名のパティシエが集まり、すべてのスイーツに乾燥卵を使用しています。乾燥卵であることを意識して作ったスイーツも多く、このように乾燥卵だけで作ったスイーツの試食会は世界初ではないかと思います。
もちろんフレッシュなたまごの良さを使いながら、乾燥卵の良さも引き出していくことで、より美味しいスイーツができると確信しています。私自身、たまごの未来を感じさせるようなスイーツが作れたのではないかと受け止めています。
今日を「乾燥卵スイーツ」のスタートとして、数年後にはパティシエだけでなく、たまごを扱う企業にまで広がっていくことで、乾燥卵スイーツのレベルが上がっていくのではないでしょうか。フレッシュなたまご、乾燥卵、それぞれの良さを組み合わせたスイーツのスタートに立てたような気がしています。皆さんには、今日をきっかけに乾燥卵の理解を深めていただけたらと思っています。
―大森先生
ありがとうございます。江森シェフからたまごの美味しさを新発見できるようなスイーツが生まれることを、皆さんと一緒に楽しみにしたいと思います。本日はありがとうございました!