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【教えて!五ツ星タマリエ】 鶏卵業界の大先輩に聞く、業界の歴史と消費拡大への熱い想い

鶏卵業界2年目の編集担当Mが、五ツ星タマリエ(※)のみなさんに、卵の魅力や世界を教えてもらう企画も4回目になります。今回は鶏卵業界一筋38年のJA全農たまご菅野裕二専務取締役にインタビュー。鶏卵業界の知られざる歴史を伺うとともに、業界人自らが率先して行う消費拡大活動の取り組みについて語っていただきました。

※「五ツ星タマリエ」とは、卵に関する知識を正しく理解した人に与えられる卵のソムリエ資格「一ツ星・三ツ星・五ツ星」3ランクの最高位の称号です。卵のことなら何でも分かるプロ中のプロとして認められる栄光の資格です。


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菅野 裕二(かんの ゆうじ)

JA全農たまご株式会社 専務取締役。鶏卵業界歴は38年となり、最年長の五ツ星タマリエ(20245月現在)。たまごの健康効果のエビデンスを求めるべく意識して食べ始めた最初の健康診断で腹囲・γ-GTP・中性脂肪の数値が良くなっていたことに気づく。現在でもたまご1日2個以上を食べることを目標としており、5年間の連続で年間摂取個数は1,000個を超えている。

―編集部M

はじめまして! 「たまペディア」編集担当Mです。本日はよろしくお願いします。菅野さんは鶏卵業界の大先輩です。最年長の五ツ星タマリエと伺いました。緊張します...(笑)。まずは自己紹介をお願いします。

―菅野さん

はじめまして。五ツ星タマリエの菅野です。JA全農たまご株式会社の専務取締役をしています。1986年にJA全農たまごの前身である全農鶏卵株式会社に営業の一期生として入社してから38年。主に鶏卵販売の営業を中心に、鶏卵業界に携わってきました。

―編集部M

たまご一筋38年ですか! 大先輩です! 畏れ多い...(笑)。では最初に、JA全農たまごがどのような事業をしている会社なのか教えてください。

―菅野さん

JA全農グループのたまごの専門会社です。国産鶏卵の取扱量日本一の卸会社として、ほぼ全国の生産者から安定的にたまごの仕入れを実施し、全国チェーンの量販店や、食品メーカー、鶏卵問屋などに販売しています。また、全国の鶏卵の需給動向を集約し、鶏卵相場や鶏卵情勢の発信を日々行っています。当社の発表する相場は日本経済新聞に載っているんですよ。全国で行われる取引はこの相場を参考に行われています。
他にも、鶏卵加工品の製造・販売や、TAMAGO COCCOというスイーツショップの運営も行っています。
鶏卵業界のリーディングカンパニーとして、仕入と販売の橋渡しとなり、「たまごが当たり前にある毎日」を実現することが最大のミッションです。

―編集部M

「たまごが当たり前にある毎日」。ステキです。その当たり前の背景には、業界のみなさんのご苦労があるんですね。菅野さんが入社された当時と今の鶏卵業界って、どのような部分が大きく変わりましたか?

特殊卵の登場がたまご売場を変えた

―菅野さん

かなり変わりましたね。いくつかありますが、1つは「特殊卵の登場」です。
全国的な商品として最初に日本農産工業株式会社の「ヨード卵光」が出てきました。その後、各社が特殊卵を開発するようになります。JA全農たまごでは19902月に「しんたまご」という商品を発売しました。これがたちまち量販店で評判になります。

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1990年元祖「しんたまご」が発売されたときのパンフレット

―編集部M

どのあたりが評判になったんですか?

―菅野さん

なぜ喜ばれたかと言うと、価格が固定化されるので売上高を高くできるためです。それまでのたまご売場は、MLなどのサイズ別の販売しかありませんでした。これらは相場に連動して売価が値付けされていたため、どうしても量販店の売上や儲けを読みづらいという課題があった。あと、お店の集客のために特売をしますが、そちらも儲けが少ない。そのため、固定価格で販売出来る特殊卵は量販店にとって一定の売上や収益を安定的に確保できることから有難かったんです。生産者の方々にとっても安売りに囚われないたまごとして有難かったそうです。

また、しんたまごはMLサイズといった普通卵と呼ばれるたまごと比べて、飼料にもこだわり、ワンランク上のおいしさ・栄養・色合いを実現した新しいたまごとして評判になりました。

このような経緯から特殊卵やブランド卵がブームになり、今に至っています。

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現「しんたまご」のパッケージ

―編集部M

それは知りませんでした! そんな背景から特殊卵が広がっていったんですね。勉強になります。他にはどのような変化がありましたか?

業界全体で取り組んだ一大プロジェクト「賞味期限の表示」

―菅野さん

2つ目は「賞味期限の表示」ですね。これはかなり大きな変化でした。

―編集部M

え? 賞味期限って表示されていなかったんですか!

―菅野さん

そうそう。卵は農産物と一緒の扱いだったので、賞味期限が書かれていなかったんですよ。野菜に賞味期限が書かれていないのと同じです。あと、更に大昔では洗卵せずに売られていた時もありました。

―編集部M

知りませんでした......。今から考えると想像が出来ません。では、何故賞味期限を表示する必要が出てきたのでしょうか?

―菅野さん

サルモネラ属菌の食中毒を防ぐためです。当時腸管出血性大腸菌O157の食中毒が社会問題になっていました。同じ頃、肉や卵が原因と考えられるサルモネラ属菌による食中毒件数が増加し、問題視されるようになります。そのような背景があり、厚生省から「たまごにも賞味期限をつけた方がいい」という話が出てきました。

そこで、業界では自主的に「鶏卵の日付等表示マニュアル」を作成して取り組みを始めました。そして、1999年の法改正により、賞味期限の表示が義務付けられるようになったんです。

―編集部M

今までのやり方から、ガラッと変わりますね。

―菅野さん

そうですね。対応するのは本当に大変でしたね。GPセンター(※)に洗卵をする機械や日付を印字する機械を導入したり、輸送や保管の方法も変えたりする必要があります。これは、業界全体を巻き込んだ大掛かりな取り組みでした。

Grading(選別)とPacking(パック詰め)の頭文字を取った略称で、たまごを洗浄、乾燥、 検査、計量してパック詰めを行う工場のこと。

そういった業界全体の苦労もあり、サルモネラ属菌の食中毒が大幅に減りました。また、世界で唯一の、安心して生食できる生産・流通の仕組みが完成したわけです。これは誇らしいことですね。

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「賞味期限の表示」とともに変わった流通の仕組み

―編集部M

皆さまのご苦労が、今の当たり前を支えているんですね。流通の仕組みにはどのような変化がありましたか?

―菅野さん

例えば、昔は「消費地GP」が主流でした。GPセンターを消費者多いエリアに作り、各生産者から原料卵(洗っていないたまご)を集めておきます。そして、注文が入ったタイミングでパッキングをするという仕組みです。生産者の数が多かったので、まず集めた方が効率良かったんです。当社でも首都圏に5つの直営GPセンターを持っていました。

それが、今では「産地GP」が主流になっています。産地にGPが併設されており、速やかにパッキングする仕組みです。変化した理由の一つに、品質管理が強化される流れの中で、リードタイムの短縮が求められたことがあります。産地で生まれたたまごをパッキングしてお店に届けるというやり方です。あと、昔に比べて、各生産者の規模が大きくなったことも理由の一つですね。

―編集部M

流通の仕組みも変化していったんですね。

―菅野さん

そうなんです。当時大手量販店が独自に「たまごの品質基準」を作り始める動きがあり、当社も一緒になって仕組みを作り上げたりもしました。
量販店の主導でPB(プライベートブランド)商品で、GPセンターから出荷する時から店舗まで冷蔵する仕組みを作り、「冷蔵配送・冷蔵販売」と銘打って、今まで以上に一層鮮度にこだわった商品が始まったのもこの頃からでしたね。

高まる「平飼いたまご」へのニーズ

―編集部M

なるほど。今に至るまで業界では様々な変化があったんですね。では、今後迎える変化についてはどのようにお考えでしょうか?

―菅野さん

最近のトレンドでいうと、平飼いたまごの販売が継続して増えています。コロナ禍に家で食べる機会が増えて、こだわりの商品を求めるお客様に買っていただくようになりました。

また、昨年たまごの価格が上がった際に、通常のたまごとの価格差が縮まったことも一つの要因です。

相場が下がって、販売数が落ち着くかと思っていましたが、伸び続けていますね。1度食べると、商品の良さをご理解いただき、リピートしてもらえるようです。

5年連続1,000個! 自ら推進する消費拡大

―編集部M

今後の業界がどうなっていくのか、楽しみです。

もう一つ、今後のことを考える上で、「消費拡大」は大きなテーマになると思います。五ツ星タマリエ試験で、消費拡大に関する論文を書かれたと伺いました。内容について教えてください。

―菅野さん

はい。消費拡大は業界全体の目標です。消費者の皆さまにたくさん食べていただくためには、まず社員自らが率先して食べていくことが重要だと考えています。そこでJA全農たまごでは、2019年から「たまニコチャレンジ」という取り組みを行っています。

チャレンジは2ヶ月間で、「平均鶏卵摂取量が12個以上」でクリアとなり、達成者にはピンバッジが贈呈されます。今年は業界の30社から648名の方に参加していただきました。

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2023年度版たまニコチャレンジピンバッチ

―編集部M

1日2個って大変そうですね...。

―菅野さん

2個は余裕です(笑)。私は5年連続で年間摂取個数が1,000個を超えました。昨年は1,019個でしたよ。

―編集部M

えー! 日本の一人当たり消費量が339個(2022年時点)ですから、約3倍!
1日平均にすると2.8個くらいですね。大変じゃないんですか?

―菅野さん

大変です(笑)。意識して食べないとダメですね。もし日本人全員が年間1,000個食べれば、今の3倍の生産量が必要になります。一人当たり消費量1位のメキシコはあっという間に抜けますね(笑)。

―編集部M

どんな工夫をされたんですか?

―菅野さん

ゆで卵を一気に作っておくのが一番簡単ですね。食事のメニューに組み込むのは大変なので、食事プラスゆで卵、という方法がオススメです。ただね、1,000個といっても、10個パックが100個ですから、1パック250円としても年間25,000円。そこまで大きな金額ではないんですよ。それで体に良いんですから、素晴らしい食材ですよね。

たまごの健康効果のエビデンスを作りたい

―編集部M

確かにそうですね! たくさん食べて、体にはどんな変化がありましたか?

―菅野さん

そうそう。ここから論文の話に繋がるんですが、意識して食べ始めた最初の健康診断を受けたら身長が伸びていたんですよ。

―編集部M

えー! 本当ですか?

―菅野さん

一瞬ね。何かの誤差かもしれませんが(笑)。
でも、他の数字をよく見ると、腹囲・γ-GTP・中性脂肪が下がっていたんです。そこで、周り社員にも聞いてみたら、数値が良くなっている人がいて。そして、「たまごの健康効果をデータで示すことが出来るのでは?」という発想に至りました。そのような提案を論文に書いています。

―編集部M

たまごが体に良いことはなんとなく分かっていますが、数値で示されると説得力が違いますね! 

―菅野さん

そうなんです。そこで、大学の先生に相談したところ、社員や業界関係者だけではなく、一般の方の客観的なデータを取ることを薦められました。将来的に、外部の機関で調査ができないか、現在検討をしています。

―編集部M

それは楽しみですね! たまごの価値を分かりやすく伝えるエビデンスになりますね。
それでは、本日は貴重なお話しをありがとうございました。今の鶏卵業界の「当たり前」が出来た経緯を知ることが出来ました。また、将来の消費拡大・価値向上に向けた取り組みには、まだまだ可能性がありますね。「たまペディア」も一緒になって情報発信をしてまいります!

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